the 雑念

葉一用。とりあえず日記

3/5 先輩「故郷が恋しいので上野駅に行ったってワケ」僕「啄木かよ」

【耳鼻科について】

暇があったので耳鼻科に行けた。近所の個人開業の耳鼻科に中学生の頃から通っている。医師が1人しかいないので、大概死ぬほど混雑しているのだが受付時間ギリギリに滑り込んだのでそこまで待たずに診察を受けられた。

端的に言って変わった医者である。私が中学生の頃はまだ若く、比較的顔立ちの整っていた彼はビジュアル系の趣きさえあった。髪の色は明るく、白衣の下履きはジーンズだったのを覚えている。花粉症の私に「早く寝て、よく水を飲むこと」という古来より伝わる万能の治療法を必ず教えてくれる。今日も言われた。初めて会ってから10年近くも経ち、改めて見てみるとやはり老け込んだな、という印象を抱く。子どもの多い地域なので、白衣にはアンパンマンのアップリケが付いていたりするのだが、ビジュアル系崩れのおっさんになってしまった彼の容貌と合わせると胸に迫るものがある。彼は多くを語らない。ぞんざいに私の鼻に噴霧器を突っ込んでは「ま、花粉だねー」とやる気のない声で私に診断を告げるのだ。「いつもの薬出しとくので、それでもダメだったらまた来て」と薬は1ヶ月分出す。精神科だったら怒られる量である。彼はなるだけ診察したくないのであり、そこら辺が葉一家に慕われる所以だ。めんどくさがりの邂逅。奇縁である。

【雑務について】

雑務に追われている。図書のリストを作ったり、ケースの引き継ぎをしたり、細々した厄介ごとに囲まれてばかりだ。お偉いさんにメールを送ったりもしなければならない。

拝啓なんたらかんたら、から始めて送る。小馬鹿にしているわけではないが、メールでぽちぽちそんな文章を作っていると馬鹿にしているようにしか思えない。『拝啓 春まだ浅い今日このごろでございますが、お元気でお過ごしのことと存じます』から始まるメールなんかは、間違いなく迷惑フォルダにぶち込まれそうだ。実のない修飾が苦手なのは、若さに由来するものであるとボスは言う。「わたしも昔は、礼状なんかを書くことが多くって、うんざりして年末に机をひっくり返したりしていましたから、葉一くんの気持ちがよくわかります」。そこまで過激派ではないのである。「若い時だけですよ、本当に頭を使って、誰かに失礼のないよう気をつける気持ちになれるのは」とのことだ。ボスの良いところは、こんなことを微塵も思ってないのにとりあえず年長者として言っておこう、という謎のモチベーションに満ちているところである。「まあわたしは死んでも嫌ですけどね」ふざけたおじいちゃんだ。

パンズ・ラビリンスについて】

私はへそ曲りなので、弟が「パシフィック・リム観るぜいえええええい!!」となってる隣で『パンズ・ラビリンス』に思いを馳せているのである。TSUTAYAで最初にレンタルしたDVDがパンズ・ラビリンスだった。

1年に数回は思い返すので、私にとってこの映画はかなり印象に残っているのだろう。気味の悪いクリーチャーの造形なんかは、隣でやかましくがなり立てるKaijuと通ずるものがある。でもパンズ・ラビリンスの方が気持ち悪い。詳しい話は省くが、主人公のオフェリアが現実でも、幻想世界でもどちらでも追い詰められていくところが良い。あんなに可憐な子どもが、あんなにひどい目に遭う。それでも彼女はおとぎ話の主人公のように、健気で、人として正しい選択をするのである。決して愉しい話ではない。全然ファンタジーでもない。だからこそ、現実世界におけるオフェリアの寓話性がより高まるのだ。

パシフィック・リムも中盤に差し掛かり、同じ監督がこうも作るものを変えられるからすごい、と思うばかりである。パンズ・ラビリンスの系統もまた観てみたいものだ。