the 雑念

葉一用。とりあえず日記

3/16 平日のデパートとかけて修士課程とときます。その心は「半分棺桶に足を突っ込んでいる人しかいない」

【祖母について】

母方の祖母に会った。祖母は苛烈な性格の人である。戦後の混沌と高度経済成長と祖父の破天荒な血筋が田舎者の彼女を強くしたらしい。エピソードも虚実が曖昧な境にあるものが多く、心霊や田舎の儀式に関するものや地上げ屋やヤクザに関するものまでアンダーグラウンドを極めつくしたような話がよく出る。

「私ね、火の玉を見たことがあるのよ」

今日の話はそんなことから始まった。祖母の話にはオチがない。事実を思い出し、面白いかなと思って、という素朴な理由で披露してくれるからだ。私は蕎麦を啜りながらその話を聞いていた。

「私の実家にはお風呂がなくってね、外の掘っ建て小屋にドラム缶があって、それでお風呂に入るの。入口は開きっぱなしで、そこを夜、すーっと火の玉が通り過ぎて行ったの。人から聞くと、火の玉って怖いわぁなんて思うけど実際に見てみると、あぁ、あれが火の玉なのねぇ、なんて思って」

私はその時、存外蕎麦つゆにワサビを溶かし過ぎてしまい、げんなりしていた。祖母の田舎は山に近く、そういった不思議な話もたくさん眠っているようだ。その後しばらくの沈黙があり、私が「一回くらい火の玉見てみたいね」と言った。「見たって良い事なんか一つもありゃしないのよ」と祖母が言う。祖母はそういう人なので、私はげらげら笑っていた。祖母はにこりともしないで蕎麦を啜る。

「昔ね、お父さん(祖父)の弟のAがいっつもお金貸してくれって言ってきてたの。お父さんが死んだ後も、電話来てたのよ。それで頭にきて放っておいたんだけど、今度はサラ金の人から電話が来たり、『金返せ』って赤字でハガキに書いてあるのが届いたりして。それで次にサラ金から電話来たとき、言ってやったのよ「A?知りませんよ?一回死んだらいいんですよあんな奴。あなたのところもね、抵当も取らないで三文判でお金貸したら、そりゃ借り逃げされるんじゃないんですか?少し考えたらわかるでしょう?」って。2時間くらい怒鳴りつけてやったら「ああはい、そうですね……」とかなんとか言って、二度と電話かかってこなかったわ」

婆さんは暇なのよ、と祖母は話を結んだ。私は「ふーん」と言いながら、上あごに張り付いた海苔を舌で取ろうと格闘していた。祖母はにこりともしないでお茶を啜る。極めて感情が読み取りにくい人であるが、おそらくこれは「ドヤ」という感じだろうと私は見当をつける。「めっちゃ強いじゃん」と言うと、「1人で生きていくと、強くなるのよ」と祖母は返す。それから骨壷をゆうパックで送ろうとした話など、とんでもないような話が続くのだが割愛する。エピソードの物量で殴られた。

【ラーメンについて】

夕飯にカップ麺を食べよう、ということになり、不承不承お湯を注いだ。昼飯が蕎麦だったこともあるが、私は麺類を好んで食さない。

嫌いなわけではないのだが、麺類は私の中で味覚の地平とでも表現するべき全き同じ味が終わりまで連続する恐怖の食料である。3口目くらいまでは美味しいが、4口目以降はすっかり飽きている。しかも早々に食べきらなければ麺類は伸びたり冷めたりして時間経過で不味くなる特性がある。プレッシャーだ。猫舌だし。

しかしながら、別に嫌いなわけではないのである。さあ今日のカップ麺はなんだ、と勢い込んで戸棚を開けると、『のり塩味』と書かれたカップ麺が。

(のり塩味……ってなんだ??????)

蓋を開けると『青のり』と書かれた小袋が現れ、その下に麺、と見せかけた乾燥した芋の細切りが無造作に載っており、私の戸惑いは最高潮に達した。お湯を注いで食べると、芋のような何かと青のりが載った塩ラーメンであった。4口目で箸が止まり、やはり飽きた。そこからは味の地平である。煮え湯を飲みながら手早く麺を処理する競技になる。もしかしたら、これは麺類が嫌いと表現されるべき現象なのかもしれない。

【ドラマについて】

結局今期のドラマは母に引きずられて『フラジャイル』を全て見てしまった。母は泣いたり笑ったり忙しかったが、私は顔にあまり感情を乗せず何でも楽しむことが出来るので基本的にはティッシュ取る係であった。

母はドラマを見ている最中『なぜここで』というタイミングで泣き出すことがある。これは通常の涙脆いという概念とは違う。

「うう、これから◯◯君××されちゃうからー」

預言者か、という感じだがこれがまた当たるのである。最終回も始まる前に大体の流れを予想され概ねその通りになっていた。勿論、楽しみは減じられる訳である。弟のネタバレ癖、母の予知とこの家で何かしらの物語を楽しむのは困難を極めていく。

母「最後BLっぽかったね」

僕「わかる」

楽しいものを楽しむときは1人で、これが鉄則になりつつある。